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shinoのときどき日記


2010年02月02日(Tue)

『パソコン創世「第三の神話」』を読みました。

パソコン創世「第3の神話」―カウンターカルチャーが育んだ夢
ジョン マルコフ/John Markoff/服部 桂
NTT出版
¥ 2,940

『パソコン創世「第三の神話」』を読んだ。先に『サイバービア』を読み、カウンターカルチャーから発生してきたネット文化やメディア論について学んだが、本書は『サイバービア』ではスチュアート・ブランドの陰となっていたダグラス・エンゲルバートにスポットをあてた本である。

「第三の神話」と名付けられた、その第三は何を意味しているか。それはコンピュータの三つ目の役割であり、カウンターカルチャーが目指したひとつの理想郷である。

本書では、エンゲルバートが描いたコンピュータのあり方を歴史とともに丁寧に描いている。当時、コンピュータには二つの役割が求められていた。一つ目は計算機・演算機能としてのコンピュータ、二つ目は人間の心や思考を代替する人工知能という役割。しかしエンゲルバードの理想とするコンピュータのあり方はその二つとはまったく違う方向だった。

エンゲルバートは、コンピュータに自分自身の人間の知性を拡大する役割を期待した。人間の代替ではなく、コンピュータを利用することで、利用者の知性を拡大しようという方向だ。それが、第三の役割である。

エンゲルバートは、「コンピュータはただ数字を処理するものではなく、計画作成や組織化、研究といった数学的でない対象を処理する能力を持っており「シンボル化した概念を使って思考する人には・・・・・・大いに役立つ」」と思考支援のメディアとしてコンピュータの可能性を予感した。(p.81)

今では、当たり前のように感じられる、そのようなエンゲルバートの思想は、当時はまだ実現されていず、その実現には西海岸に住んでいた様々な伝説的ハッカーが関わり、徐々に姿をあらわしてくる。その過程を詳細につづられたのが本書である。

カウンターカルチャーが隆盛だった当時、人々はドラッグにおぼれた。人々はドラッグの力を借りて、知性や認知の拡大を目指そうとした。これはカウンターカルチャーの大失態である。

本書のp.234(それは1969年あたり)で、カウンターカルチャーの代表的な作家であり、スチュアート・ブランドが絶大なる支持を寄せていたケン・キージーが、テキストを扱ったり、情報を検索するシステムのデモをみて、「これこそLSDの次に来るものだ」と感嘆したのは、カウンターカルチャーがドラッグで失敗した理想を、コンピュータがまだ実現可能だということを示唆しているだろう。

『サイバービア』では、ウェブのリアルタイムなコミュニケーション文化の中毒性は、ドラッグのような失敗を繰り返すのではないだろうか、というダークサイドの面が強調されていたが、本書により、エンゲルバードがそもそも目指した理想は「人間知性の拡大」であるという点であることを、もう一度思い出すことにより、パーソナルコンピュータというメディアはまだ可能性を持続した存在であると、希望を抱くことができる。


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