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shinoのときどき日記


2012年10月26日(Fri)

『劔岳 《点の記》』新田次郎 著

劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))(新田 次郎)

この本は1981年に書き下ろされた小説だが、明治39年(1906年)実際にあった話を下敷きに、丹念に資料を集め、現地や関係者に取材を重ねた、ドキュメンタリーでもある。

主役の柴崎芳太郎は測量官で、年中、日本各地を訪れて、測量を重ねていた。日本の地図はまだ未完成の時代で、中でも、北アルプスにある劔岳は未踏峰で地図は白いままだった。

劔岳が未踏峰だったのには、ひとつ岩山で絶壁がそそり立ち、人を寄せ付けない厳しいという理由もあったが、劔岳のそばにある立山は修験道が盛んな信仰の山で立山信仰からみると劔岳は死の山とされ、人が登ってはならない、登ったら祟りがある山と信じられていたためもある。

しかし、明治のこの時代、日本は開国し、科学にも開かれ、江戸時代以前の風習を断ち切って、新しい時代を築くために、劔岳にも測量を持ち込み、日本国内の地図をより完成させていこうという機運があった。

一方、英国などから登山文化が流入し、日本にも山岳会が立ち上がりはじめた時代だった。劔岳は軍隊から派生した測量隊による登頂が先か、それとも仕事ではなく文化として登山をする山岳会の登頂が先か、初登頂を競いあう展開も威勢があった。

また、古い因習を断ち切ると言っても、当時、山を実際に駆けめぐっていた、行者や麓の農村の山に強い若者たちについても、丁寧に描いている。

断崖絶壁に囲まれた劔岳に登るためのヒントを、主人公の柴崎が行者から得る場面はぞくぞくするほど神秘的だった。この本では、行者の一端しかのぞけなかったけれど、行者や立山信仰なども、どんなものなのか、もっと知りたいと思った。

また、劔岳を目指した測量隊のメンバーは、地元の山に長けた男たちで、主人公の柴崎自身も登山経験は豊富だが、測量仕事を成し遂げるために、男たちを心底信頼し、良いチームを組み上げている。測量隊というプロの登山隊の仕事がこの小説では読めた。

作者、新田次郎氏は1901年に亡くなられているけれど、未だに評価の高い作家で、『孤高の人』はつい最近漫画化されたし、この『劔岳 点の記』も2009年に映画化されたようだ。Wikipediaをみると、新田次郎を越える山岳小説家はまだでてきていないと評価記事が掲載されている。もっと新田次郎を読みたい。次に読む本を選ぶのが楽しみになる読後感だった。

劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))
新田 次郎
文藝春秋
¥ 720

Tags: 読書

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