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shinoのときどき日記


2012年10月09日(Tue)

『梅里雪山』 小林尚礼著

四川省、ミャンマーに挟まれるようにチベット自治区の東端に位置する梅里雪山は、別名をカワカブという。標高6740m、世界最高峰のエベレスト8848mに比べたら2000mも低い梅里雪山は未踏峰だという。それは、山の難易度ではなく、人々の信仰の山だからだそうだ。

この本は、1991年1月3日に雪崩にあい氷河に押し流された17名の日中合同梅里雪山学術登山隊員の捜索を救助活動後も続けられ、2010年までに16名の遺体を収容された小林尚礼氏の話だ。

しかし、この本で語られているのは痛ましい事故の清算ではなく、登山隊員として頂を踏むことにこそ山があるという価値観から、人間の命を奪う魔であると同時に山麓の村々の命を育む山であり信仰の山であることに価値観が大きく変化し、生まれ変わってゆく話である。

最初は登山の本に良くあるような標高や、B.Cの設営や山頂にむかって伸びてゆくルートが描写される。そこに至る道の途中では、村人たちに酷く威嚇され、山に登ってはならないという警告と敵意を与えられた。

それが、小林氏が何度も遺体捜索に村に通ううちに、老若男女、村人の個性が浮かびあがってくる。もちろん仲良くなって良い人ばかりではない。楽しいつきあいばかりではなく、しばしば、親しくなった村人の死をも間近にする。

また、チベットの山岳信仰には巡礼がある。山の頂を目指すのではなく、山をぐるりと回る行為だ。小林氏は、何度となく巡礼のルートを村人のガイドでたどり、そこで、命の危険を省みず危険な巡礼の道にとりついてゆく人々や、家族連れで赤子を背負ってゆく女や老人をみる。

そんな出会いや光景をみて、そして聖山カワカブの壮大な風景をみて、登るのではなく、人の心のよりどころとして存在する山の価値の尊さに気づいてゆく。

ひとつ。よく登山本では、雪崩にのまれて遭難される事故がでてくるが、雪崩にのまれた後、氷河に入り、何年も時間をかけて、氷河の終わりまで遺体や遺品が流される様子が、この本を読むと感じとしてわかる。

雪崩で埋められて終わりではなく、氷河は凍りついたまま止まっているのではなく、ゆっくりと流れ動いてるのだと、自然の動きの大きさが伝わってきた。

梅里雪山(メイリーシュエシャン)十七人の友を探して (ヤマケイ文庫)
小林尚礼
山と渓谷社
¥ 1,155

Tags: 読書

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