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shinoのときどき日記


2012年11月11日(Sun)

『ドキュメント 雪崩遭難』阿部幹男 著

ドキュメント雪崩遭難(阿部 幹雄)

科学的知識をもって雪山に臨むこと。経験と勘で「ここは雪崩が起こらない」と思いこまないこと。1997年から2001年までに発生した8件の雪崩遭難を事例とし、どのような場所や状況で、雪崩遭難が発生したかをレポートしているのがこの本だ。

雪山での雪崩は、弱層雪崩と全層雪崩の二種類がある。本書では特に弱層雪崩の被害事例の方が多かった。弱層雪崩とは、たとえばあられやみぞれまじりの水分の多い雪が降ったあと、さらに降雪が続き、表面的には安全な積雪に見えても、下にもぐったその層が加重などの要因で、流れだし、上に積もった雪もろとも流れていく。これは弱層テストといい、掘った雪の層の断面の観察によって、雪崩そうな積雪状態は判断できるそうだ。

雪崩にあわないための弱層テスト、そして、もし雪崩にあってしまった場合の装備として、スコップ、ゾンデ(埋まった人を探るための棒)、ビーコンは、スキー、スノーボーダー、登山者問わず、雪山の必需品としていた。

これらの方法や器具の扱い方は講習で拾得するしかない。だが、講習を実施する側のプログラムについても、机上講習で実感と結びつかず、せっかく講習を受けたのにその知識が雪山で実践されずに起きた事例もあった。著者は冷静に、今後の講習の改善についてもふれていた。

この本の著者の阿部幹男さんは、先に読んだ『生と死のミニャ・コンガ』の著者でもある。中国にある7000m級の山の頂上付近で目の前で、一緒に登っていた8名の仲間を一気に滑落で亡くされた。その経験の恐怖から、登山自体はやめてしまわれたが、地元北海道での山スキーは続けられ、山の不幸を減らすために、雪崩について啓蒙活動をはじめられた。

この本は、その雪崩についての啓蒙活動の一環として刊行され、事例レポートとなっているが、雪崩についての科学的知識や救助方法そのものは『決定版 雪崩学』が詳しいらしい。

また、著者は、自分自身の仲間を亡くされた経験をふまえ、生還者のインタビューを慎重に行っているのも印象的だった。生還してから日が浅いうちは、本人のショックも大きいことを実感として知っている。けれど、なぜ失敗したのか、そのミスをインタビューを通してさぐらないと今後の雪崩遭難に生かされない。時に遭難事故のから何年も置いてからようやく、生還者にアポイントを取られるなど、慎重な配慮がなされていた。

そのため、事例は単純に雪崩遭難が起こりました、科学的にはこのような理由です。対策はこうすべきでした、と、いった通り一辺倒な説明には終わっていない。雪崩前、どんな気持ちでその斜面にいたのか。事故後にはどうだったのか。特に生還者がその後、山スキーや登山をどのように続けたのか、それとも止めたのかまで言及し、それぞれを受け止めている。

ところで、わたしは漫画『岳』でこうした山の遭難やレスキュー活動に興味を抱いて、こういった本を読んでいる部分もあるのだけれど、この本にも、やはり、『岳』の主人公三歩の片鱗があった。

たった一人で雪山に何日も入り、雪洞生活をし、雪崩にも関心があったので気象と着氷の観察を続けられている人が居た。一週間に一度、近くの山荘に降りてきて、お風呂に入り、人との交流も大切にしていた。残念ながらこの方も、一人で居るときに雪崩にあい亡くなられている。約束した連絡がないことを不安に思った友人が訪ねていったことで、雪崩遭難が発覚したのだった。

ドキュメント雪崩遭難
阿部 幹雄
山と溪谷社
¥ 1,680

Tags: 読書

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