2009年09月04日(Fri)
■ ポートランドの本屋さん パウエルズブックス
■ 「パターン、Wiki、XP」
技術評論社
¥ 2,394
「パターン、Wiki、XP」は2009年7月10日に発売された江渡浩一郎さんによる書籍です。わたしはこの書籍レビューアとして今年の2月から原稿を読み、また、8月には書籍刊行イベントとして"第七回Wikiばな"というイベントを開催しました。
ようやく、レビュー活動、書籍発売、イベント開催がひとだんらくつき、少し冷静な頭で、本を読み返すことができるようになってきました。
当初の熱狂を冷まし、(すこしは)冷静に本を読むと、この本には、アレグザンダーという魅力的な建築家や、彼が生み出した「パターンランゲージ」という設計ノウハウ、また「無名の質」という深淵な思想が紹介されているのですが、じつは、「合意形成」という概念が地味ですが土台としてもっとも重要な気がしてくるのです。
書籍の索引をみますと、「合意形成」は4カ所でてきます。
パターンランゲージは、利用者の参加によって利用者と建築に関わる専門家とが合意形成し、有機的秩序に基づく建築を設計するために考え出された手法なのです。p.53
パターンランゲージ、利用者の参加、利用者と専門家、有機的秩序に基づく建築、これらは「合意形成」を通過して関係しあっていることがわかります。
アレグザンダーのパターンランゲージは、利用者と建築家が合意形成し、建築というプロセス全体を進めていくための道具として導入されたものでした。p.78
先の文書でもそうでしたが、パターンランゲージも、利用者と建築家も、合意形成なくしてはなりたたない、プロセスの進行も合意形成なくしては、なりたたないことがわかります。
Wikipediaのルールと合意形成 p.163
これは見出しタイトルで、このトピックでは、Wikipediaでページを作成するために議論し合意形成された7つのルールが紹介されています(7つのルールはWikipedia文化におけるWikipedia構築のためのパターンランゲージである、と言うのは誤読でしょうか)。そして、このトピックは次のように結ばれています。
このようにWikipediaの最初期には、サンガーとウェールズと共に、Wiki上の参加者の議論によって合意形成がなされ、それに沿ってプロジェクトが運営されていきました。p.165
Wikipediaは巨大な百科事典として、いまやネットに接続する人ならば誰もが一度は少なくとも参照している情報サイトですが、同時にコミュニティでもあって、そこで、人々は「合意形成」しあって、プロジェクトが運営されているというのがわかります。
では、「合意形成」とはなんでしょう。じつは本文中に合意形成についての説明は省かれています。
Wikipedia:合意形成で見てみました。
アレグザンダー自身が用いてる用語と同一かどうかはわかりませんが、そこには「Consensus building」という単語で紹介されていました。(アルクで合意形成を調べると、もうひとつ「Conssensus formation」という単語もありました)。building!建物、構築というニュアンスが含まれているのが、これまたおもしろいですね。
「合意」という言葉は単純に「当事者双方の意思が一致することを指す」ということですが、「合意形成」にはもう少し複雑な関係のなかで、意見を一致に導くこと、またそのために、はかりごとをする、プロセスを持ち込むという技が必要なニュアンスがあるようです。
「パターン、Wiki、XP」では、その多様な関係者の意志を一致に導くため、合意形成を得るために、パターンランゲージをひとつの道具として提唱していると言えます。
パターンランゲージを建築手法のひとつ捉えているだけではダメなのです。その背後には、関係者全員の「合意形成」を促すための道具だ、という思想があるわけです。
アレグザンダーは建築・建造物を作り出す、そのもっと根本的なところに、カタチではない人間同士のかかわり合いを見つめていた人と言えると思います。だから、ソフトウェア界や、Wikipedia界にも積極的に取り入れられたのでしょう。
ソフトウェア界はプログラミングを作ります。けれど、その背後にはさまざまな関係者がいて、そこには合意形成が必要とされます。
また、Wikipedia界ではWikiページを作成します。やはり、その背後には特に複数の編集者がいて、そこには合意形成が必要とされます。
ですから、この本を読んで、書かれてあることをわかったようにひとり抱え込んではもったいないことだと思うのです。ありとあらゆる人が関係しあう場において(それは仕事場だったり、コミュニティであったり、学校だったり、生活の場だったりいろいろです)、人々の営みが進んでいくのに、合意形成は重要で、そのひとつの手段としてパターンランゲージがあるというのを押さえておくことが大切に思いました。そして、パターンランゲージ以外の手段だって合意形成にはあるでしょう。そのことも念頭においておくことは大切かと思います。
本を読んで、いま、わたしは、どこかで誰かと、パターンランゲージを使って合意形成をし、合意形成をしパターンランゲージを作りだし、そして、何かをつくりだすようなプロセスを体験したいなぁ、という感想を持ちました。
そして、誰かと関係しあうときに、できあがってきたものに、そこに「無名の質」が発生するならば、なおよし!です。
